注釈付き抜粋版-MC2-JP

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業では、日本語とは小さなレンガの集合 体で、個々のレンガを組み合わせて文章 を作ればコミュニケーションができると いう印象を受けたのです。たとえ日本語 のネイティブが話すような流暢な文章で なくとも、相手にメッセージを伝えるこ とはできるのだと気づかされました。そ の授業は単に楽しいだけで終わらず、波 及効果で他の授業をより闊達に受講す るようにもなりました。私にとって本当 に大きな発見があった授業でしたし、同 窓生とこの話をするたびに皆そうだった と盛り上がります。 そういったわけで、私がフランス語を教 え始めた時にも、1年生には IM を使お うと心に決めており、実際とてもうまく いきました。しかし2年生においてはそ の輝きは鈍り、自分の授業に少しフラス トレーションを感じていました。学生達 には退屈している様子がうかがえ、その 原因は授業でやることが単純すぎて、1 年生のときとほとんど変わらないことに あるようでした。1年目は文法を学ぶこ とに力を入れ、自己紹介や家族の紹介 などの基本的な会話練習をひたすら繰り 返していましたが、2年目になると学生 たちは次のレベルに進みたがっているよ うに感じました。そこでフランスの FLE の教科書によくあるように、口頭表現や 文章表現の自由度を上げてもっとクリエ イティブなアクティビティをさせようとし ましたが、それはそれで難しすぎました。 学生たちは何かもっと面白い練習をした いと思っていても、実際にはフランス語 のレベルが追いついてこないのです。授 業が進み試行錯誤を重ねるにつれて、 A2 レベルの学生が抱える3つの根本的 な問題が明らかになってきました。 • 強い自意識による臆病さ(少し 抽象的なので、後ほどご説明しま す。※編注: QR コードの動画を御 覧ください) • 語彙不足(文章を生み出すレンガ がなければ何も生み出せません。 単純なことです) • 戦略を立てる力の欠如 まずは私が「戦略を立てる力」と呼ぶ ものについて説明します。問題なのは、 学生達がフランス語で複雑なことを伝え

ようとする時、先に日本語で文章を考え てからフランス語に翻訳しようとするや り方なのです。母語であれば、話があち こちに飛んでまとまりがなくともほとんど 問題ありません。母語は既に血肉となっ ているので、いいかげんに話してもそれ なりに意味の通った文になるからです。 よく挙げる例なのですが、2年生に好き な映画を聞くと、みんな「ハリー・ポッ ターが好き( J'aime Harry Potter. )」と フランス語で答えることができます。こ れは1年生で習った言い方なので問題あ りません。しかし、ハリー・ポッターは どんなストーリーですかと聞くと、学生 たちは完全に行き詰まってしまいます。 頭の中には日本語で考えた説明がある はずですが、それをそのままフランス語 にしようとして挫折するのです。その結 果、諦めて日本語で話してしまうか、「フ ランス語では難しすぎます」と言うか、 果敢に話そうとして玉砕するかのいずれ かになることがほとんどです。そこで、 この戦略を立てる力を授業で教えてみる ことにしました。 私は「戦略を立てる力」を以下の2点 を主軸に考えています : • 話に 統合性 を持たせること。つま り、話す内容を整理し優先順位を つけることです。 • これは同時に話の 簡略化 の必要性 に繋がります。学生にとってはよ り心理的なハードルが高いかもし れませんが、ハリー・ポッターに ついて話したいことをきっちり整 理できたとしても、そのすべてを 言葉にするには力不足であること が多いのです。言いたいことはあ っても知らない単語ばかりでは即 興での会話は困難ですから、思い 切って話を簡略化するスキルは必 須です。 学生にとって、話を整理することと簡略 化することの両方を身につけるのは一朝 一夕にできることではありません。 「完 璧な文を話したいというこだわりを手放 す」 、つまり、言いたいことをそのまま 伝えたいという執着を捨てるのが難関な のです。更に、ゲームのように戦略的な 知性が求められる点にも留意が必要で

A2の学生へのコミュニ ケーション教育

シモン・サルヴラン(上智大学准教授)

イミディアット・メソッド(以下IMと略)は どちらかというと1年生の初心者に向いてい る手法ですが、シモン・サルヴランは更に 「IMに続く手法」について10年来の研究を 続けています。彼は2018年にそのアプロー チの基礎を築いた論文を発表し、同年の SJDF奨励賞を受賞しました。このアプロー チに基づいた教科書『Moi, je... コミュニ ケーションA2』も完成間近です。2022年 9月25日に開催された第20回表現主体の 外国語研究会でも、そのアプローチと教科書 についての発表をされました。今回は同発表 の冒頭の書き起こしをご紹介します。ご興味 を持たれましたら、ぜひ同載のQRコードよ 皆さんの中で、「イミディアット・メソッド ( IM )」で語学を学んだのは私だけかも しれません。私がパリ第7大学で日本語 を勉強していた時、ある日本人の先生が この方法を使っていました。とてもダイ ナミックな素晴らしい先生で、 IM は私の 中の多くのものを解き放ってくれました。 当時の私は日本語を難しく考えすぎてお り、ほとんど乗り越えられない壁のよう に思っていました!しかしその先生の授 り発表の完全版動画を御覧ください。

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